軽快な音楽とともに葛飾北斎《喜能会之故真通(きのえのこまつ)》の一図がスクリーンいっぱいに映し出される。
この時点で上映後1分くらいだろうか。すでにクスリ、フフフと声が出る。
春画に書かれている詞書(ことばがき)が読み上げられる。
ちゅう、つっぱつっぱ、ふふう ふう すう
春画には口吸いの音や身体と身体が絡み合う音、こすれる音が書かれているのだ。
この時点で開始3分くらいだろうか、上映館内はワハハ、ケタケタと来場した人々の笑いに包まれた。
そう、これが春画の力なのだ。「わらい絵」なのだ。
このドキュメンタリー映画『春画と日本人』は2015年永青文庫で開催された
約21万人動員の春画展開催までの裏側
そして春画の研究に関わる人々の苦労や葛藤などを丁寧に描いている。
春画とはなにか?
春画について詳しくしらない方々に簡単に説明すると春画とは「性の営み」を描いた浮世絵の総称である。
「性の営み」はつまり、誰かの人生そのもの。
そのため春画だからといって必ず男女が交わっている絵とは限らない。
そして日本では和合が万物を創造するおめでたいものとする考えがあり、
「性と笑い」は密接な関係があった。
そのため春画は「笑い絵」「わ印」などとも呼ばれている。
取り締まりの対象となりつづけた春画
春画の取り締まりの歴史はとても長く、この映画では江戸時代にも好色本、
つまり春画の取り締まりがあったことにも言及してくれている。
江戸時代の出版の取り締まり令の中で艶本への最初の言及は問屋仲間に向けた
寛文期(1661-73)の禁令に見出される。
その後、享保の改革の初期(1721-23)に幕府は問屋仲間における出版物の新たな規制を確立した。
それは徳川家の一族に言及しないことや珍奇なことを書かない、豪華な出版物を作らないことであった。
その結果、春画も間接的に取り締まりの対象となった。
春画が禁止の理由は「エッチだから禁止」ではなかったのだ。
その結果、需要があった春画は秘密裏に取引されるようになり
表上のルールを気にしない超豪華な春画などが作られ続けた。
長い長い年月をかけて春画は人々にタブー視は強まり、「エッチだから禁止」になった。
映画では数多くの春画の研究に携わる人々にもフォーカスをし、
春画の研究をすること自体が容易ではなかったことがわかる。
その後、研究者の方々のおかげで無修正の春画の本が出版され、
現在のように本屋で春画に関する専門書が無修正で購入できるようになった。
この無修正の春画の本が出版されるまでのストーリーも是非注目して観て欲しい。
しかし、春画の本が無修正で観られるようになったからといって、
本物を美術館で観られることはまた別だった。
春画展のその後
映画中で美術史家・文化資源学研究者の木下直之氏は
「出版物はよくて何故ホンモノの春画の展示はだめなのか」と述べる。
様々な紆余曲折があり大成功を収めた春画展、その後春画の展示が各美術館で開催できるようになったのか?
答えは「No」である。
2019年に渋谷区立松濤美術館で「女・おんな・オンナ~浮世絵にみる女のくらし展」で一部春画の展示があったり、
銀座のシャネル・ネクサス・ホールで美術商の浦上満氏のコレクションによる春画の展示があった。
しかし、海外にある肉筆春画の里帰りを含んだ大きな春画展は開催されていない。
「猥褻とはなにか?」
「表現の自由とはなにか?」
上映後、この映画を手掛けた大墻 敦氏は
「この春画展を巡り、ひとつの波紋をみた。その波紋はどのように広がったのか。わたしたちは『見えないもの』に怯えているのではないか。」
と話していました。
このドキュメンタリー映画「春画と日本人」は日本における春画展開催までのドキュメンタリーであり、
春画に携わる研究者たちのドキュメンタリー、春画が好きなひとのためのドキュメンタリー、
そして2015年の春画展に来場した多くの人々のドキュメンタリーだと感じた。
わたしは春画のタブー視がなくなり、美術館で他の浮世絵と同じように
役者絵、風景画、美人画、春画と特別視なく浮世絵のひとつのジャンルとして
自然に展示がされ、多くの人が春画を楽しめる日が来たら良いなと思う。
2019年9月より全国で上映がはじまるので、是非そのリアルな事実を感じて欲しい。
春画を海外から収集し、惜しみなく展示してくださるコレクターの方々、
春画の研究をつづけてくださった研究者の方々、
春画展開催に関わった多くの方々、この映画を制作してくださった方々に感謝を述べます。
ありがとうございます。
【映画は全国各地で開催予定】(8月31日時点)
9月28日(土)~東京・ポレポレ東中野
10月26日(土)~大阪・第七藝術劇場
10月26日(土)~京都シネマ
12月7日~20日(金) 神戸アートビレッジセンター
2019年 秋 名古屋・シネマスコーレ
2019年 秋 苫小牧・シネマトーラス
調整中 横浜シネマリン