版画はじめ、個人での美術品の撮影は難しい。
撮影すると作品が光で反射したり、せっかくの作家の技巧が映らなかったりもする。
特に浮世絵は光により退色したり、きめ出しや雲母摺りなどを施していることがあるのであまり表面に物体を接触させたくない。
そのうえ自宅のスキャナやスマホでは高解像度のデータ化は難しく、一眼レフでは自分で長時間露光での撮影をするとなるとカメラを購入するところからのスタートだし、
カメラでの撮影としても何処で依頼をすれば満足のいくデータにしてもらえるのかもわからなかった。
まるで本物をルーペで見ているリアリティ。
「浮世絵」「スキャン」で検索すると、トップにアイメジャー株式会社という企業がヒットした。
この企業は特殊なイメージスキャナの開発をしているようで文化財の調査研究やたんぱく質やDNAの解析に使用する機器の開発も手がけているようだ。
その中でオルソ・スキャナと呼ばれるデジタルアーカイブ用のイメージスキャナを見つけた。
このスキャナを使用すると、美術界がや日本刀、立体の作品を接触することなく高解像度で撮影することが可能とのこと。
詳しいスキャナの仕組みはアイメジャー社にの公式サイトの説明を見ていただきたいのだが、
このスキャナでスキャンニングしてもらえるサービスがあり、しかも2020年3月までは初めて以来の方限定で20%オフでサービスを受けられると言うことで急いで公式サイトの見積もりフォームより版画の撮影を依頼することにした。
スキャンニングするには会社のある長野県まで作品を発送しなくてはいけないのだが、発送中の衝撃による破損が心配だった。
なので「額装のまま発送し、到着後に額から作品を取り出してスキャンしてほしい」という内容を見積もりフォームに添えて問い合わせたら、すぐに見積書が添付されたメールが届き、「弊社の学芸員保有資格の方が細心の注意を払い作業をします」という丁寧な内容のメールが届いた。
この会社なら作品を丁寧に扱ってくれそう!と思い撮影の依頼をしました。
そして縦285mm×横245mmの版画のスキャンにかかる費用はこちら。
撮影した画像は作品に送付するUSBメモリに保存してもらうことにした。
金額は光学解像度などにより異なり、個人的には、この金額は高いと思いません。
ちなみにまとめて複数のスキャンを依頼した場合、3点目以降はスキャン料金が半額になるそうだ。
届いた画像はこんな感じ!
見積もり金額を銀行振り込みし、作品を発送すると一日程度でスキャンは終了し、すみやかに作品を返送してくれました。
梱包もわたしの包み方と同じようにしてくれ、破損することなく自宅に到着しました。
そしてスキャンのデータは等倍印刷ができる400ppiで依頼し、24bitカラーのTIFF画像でUSBメモリに入っていました。
カラーチャートも付いてきます。
そしてスキャンの画像がこちら。
依頼したのは《夏子 愛と罪》という小説の版画の口絵。
版画に描かれている左は6歳の「みどり」。右が「夏子」。
この口絵が小説のどこのシーンか探してみたのだが、おそらく5ページ目の
涼しい眼元で夏子を見上げた顔が、この上もなく愛らしいので、夏子はそのむつちりとした雪のやうな腕(かいな)を、みどりの肩から首へかけて抱きしめながら、「ほんとに可愛いわねえ」。
の部分だろう。
みどりと夏子の顔の特徴は「涼しい目」であり、その眼元の表現が忠実に描かれていることがわかる。
鏑木清方の描く人間の仕草や表情に惹き込まれる方が多いのも納得です。
小説の中身が気になる方は国会図書館のデータベースより閲覧可能ですので是非。
スキャンのデータは肉眼でしか確認しずらい版画の細かな技法まで見ることができた。
アップすると背景の布目摺の技法の凹凸がとてもきれいに撮影できていることがわかる。
ちなみに上の画像で、みどりの着物の百合の花の丹が黒ずんでいるのだが、友人いわく丹焼けしているとのこと。
丹は浮世絵で袴の色などに使用されるようだが、酸化により黒ずんでくるそう。
黒ずんでも丹はキラキラと光っている。
今回、高解像度のデータを撮影することにより、現存する作品を移動させることなく研究したり、経年による劣化が進む前に作品を記録しておくことで、この先も多くの人々が作品の存在を知り、その美しさに感動することができるだろうと思った。
それにわたしはこの活動を通して春画だけでなく様々な版画の美しさを知ってもらいたいと考えており、細部まで見やすい高解像度のデータは必要だ。
この絵の著作権が切れたら、この高解像度のデータを使用してグッズの制作もしてみたいなあと、また新しい楽しみも増えた。
次回はコレクションの春画の撮影も依頼してみたいと思う。