Diary 春画アレコレ

江戸期の「乙女と両想いになる方法」がサイコパスすぎる

江戸期には様々な性典物(性のハウツー本)が存在する。

例えば「吸茎(フェラチオ)の方法」「相嘗め(シックスナイン)の方法」「口吸い(キス)の方法」などテクニック系に始まり、「股の傷薬」や「即席のディルドの作り方」などのレシピまで様々である。

《吾妻文庫(あづまぶんこ)》歌川国芳 1838年

江戸期の性の認識として「交わりはおめでたいもの」「陰陽和合は万物を創造する大切なもの」という価値観が存在したため、春画では夫婦やカップルが幸せそうに抱き合う場面が見受けられる。

性典物の内容でも「布団に入っていきなり相手の股を触るな」や「相手を置き去りにして自分だけオルガズム感じてフィニッシュするな」みたいなことが書かれている。

しかし今回紹介する「乙女を情人(いろ)にする方法」は異彩を放っていた。

あきらかに書いていることがおかしいのだ。

この書物が翻刻掲載されていた書籍には「恋愛のチャンスをつくる法、昔も今も同じようである」とコメントが書かれていたが今もあったらやばいと思う。

この性典物の内容はメディアに掲載するのもためらわれたので、自分のサイトに記録することにした。

問題の中身は《閨中紀聞 枕文庫 四編》に掲載されていた

《閨中紀聞/枕文庫》渓斎英泉 1823年刊

《閨中紀聞/枕文庫(けいちゅうきぶん まくらぶんこ)》は渓斎英泉が書いた艶本であり彼の代表的名作と云える性百科全書である。

中国の性書や医書から得た知識やフィクションを加えて編集したもので、充分に生理学の知識に乏しい当時の大衆を吸引する力を持っていたようだ。

《艶説秘戯 交合雑話(こうごうざつわ)》渓斎英泉 1823年

渓斎英泉画作の《艶説秘戯 交合雑話》にも今回紹介する本がベストセラーであったことが記されている。

《閨中紀聞/枕文庫》は全四編からなり、問題の中身は最後に出版された第四編に掲載されている。

《閨中紀聞/枕文庫》渓斎英泉 第四編 1832年

【現代訳】

お金で情人(恋愛関係にある人)になるのは遊女か芸者、中から下の賤き娘、囲い者にでもなろうとする人で、それは誠の恋路ではない。

男女とも欲を離れて真情を尽くすのが真実の情人である。

さて、初心の娘を手に入れようと思うなら、第一に家業に精を出し、親孝行をして、友達と良好な関係を保つこと。

何事も出すぎたことをせず、常に倹約し、出すべきときには金を惜しまず出し、しかし女に金をあげろということではない。

何事も近所の人々に褒められ、年寄りにも可愛がられるように考え

「○○さんは××さんと同じ歳だけど、さっぱり色気がない。まだ十二、三歳のこどものようだ。桃や柿の種を拾って植えたりなんかしている」

などと言われるようにし、音曲の稽古も女師匠ではなく男の師匠のところで習うこと。

と、ここまでは初心で育ちの良い娘と恋仲になるなら世間体や生活の仕方も整えていないといけないことが書かれている。

この考えが読者に受け入れられたかどうかはわからないが、現代の視点ならば首をかしげてしまう箇所がすでにいくつかあるだろう。

《閨中紀聞/枕文庫》渓斎英泉 1823年

乙女と情人になるために必須かどうかはさておき、人との付き合いではお金を出すべきときはケチらずに払い、恋愛ごとで悪い噂が立たないように心がけるなどは、まあまあ理解できる。(乙女と情人になるために必要だったのかは謎だが。)

村や町のコミュニティでの良好な関係が求められた江戸期で、いざ誰かと付き合いたいと心に決めたときに自分自身に問題があれば相手も、相手側の友人や家族も不安になりますから。

しかし続きから雲行きがどんどん怪しくなる。

【現代訳つづき】

娘のいる家に入りこむには、かなり堅苦しい厳格な宅を選び、その家の娘を手に入れるのがよい。

しかし娘のいる家に入るには手段が大切だ。

決して娘が目的で遊びに来ていると思われてはならない。

その家の娘の両親が常々好むことを聞き「それ自分も好きなんです」と次第に近寄るのがよい。

その娘の父親が湯屋へ行くか髪結所へ行くときを待って同時に落ち合い、親しみやすくするか、娘の弟か歳のいかない小児がいればその子に取り入るのがよい。

たとえばその子が外で遊んでいるときに、わざとぶつかって怪我をさせないように転ばせて泣かせる。

それを抱いて機嫌を直させて好きそうなおもちゃを買い与え、それから家に送る。

ぶつかって転ばせてしまったことを大げさに言い立てて「さぞ痛みましたでしょう、誠に申し訳ございません」と丁寧に謝罪して帰り、それからその家に行っても娘の顔は見ないようにして、弟ばかりをかなり可愛がり門口から帰ること。

万が一娘がどこかにお泊りに行き娘が家を不在にしていれば長く娘の家に滞在して、娘が家にいるときは門口からすぐに帰ること。

これ以降は色道極秘の伝授あり。その内容は「艶色虎の巻」という本に詳しく記す。

・・・と、ここで終わります。

・娘の家はわざわざ厳格な家を選ぶこと

・娘が目的でその家に関わっていることは娘にも悟られないようにすること

・両親に取り入る、特に父親と弟がキーパーソン

・弟を転ばせて誠実な対応を見せることにより、その家との関係を深くする

娘が不在のときはその家に長く留まり、娘がいるときにはすぐに帰ることも書いているがこのようにすることで娘に気を持たせるように誘導しているのだろうか。

それとも両親に「ぜひうちの娘と結婚してほしい」と言われるのを狙っているのであろうか。

肝心の娘に接触してからの内容が書かれていないのだが、娘の家から信頼を得るためにかなりの手間をかけ時間をかけている。

目的のためなら手段を選ばず、あろうことか弟をわざと転ばせるように書くとは著者は正気だったのだろうか。

そして重要なのは、当時ベストセラーであった本にこの「乙女を情人(いろ)にする方法」が掲載されていたことだ。

ちなみに他の内容としては、月経不順に効くらしい薬のレシピや中国医書に基づく精気のはなしなどが書かれている。

みなさま、くれぐれも「乙女を情人(いろ)にする方法」は真似しないようお願いします。

実行しても確実に好きな人と情人にはなれません。

「原文で読みたい」という方は以下の画像でみてください。

《閨中紀聞/枕文庫》渓斎英泉 第四編 1832年

《閨中紀聞/枕文庫》渓斎英泉 第四編 1832年

《閨中紀聞/枕文庫》渓斎英泉 第四編 1832年



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