2023年6月15日に新潮社より『春画の穴』を上梓することになりました。
この書籍は新潮社のPR誌『波』の連載を単行本化したものです。
連載はすべてモノクロで画像を掲載していたのですが、刊行にあたりカラーで大きめの画像を掲載したので、
より江戸の性の世界に入り込みやすくなっています。
気になっていた江戸期の身体や性の表現
2018年頃から春画の活動をゼロからスタートし、くずし字の勉強をするようになり、
研究者の本ではなく、大学のベータベースから春本を直接読むようになりました。
そのなかで興味が湧いたのは、江戸期を生きた人間たちの「生命」「身体」「絵画表現」でした。
それらは美術関連書籍を読むだけでは気にならないことでした。
従来の美術関連の春画の刊行物では、春画そのものの解説や、浮世絵としての技術に焦点を当てたものが多く、
春画に込められたメッセージや江戸期の出版事情、春本の概要など、
史料すべて解読しなくても理解できるようにまとめてくれているものが多いのです。
そのうえ、出版社や著者が掲載する絵を丁寧に選別するわけですから「誰にでも優しい絵」をなるべく選んでくれるのです。
極端な例ですが、江戸期に刊行された解説本で、「怪我無く心のままに交わる方法」を解説した本があります。
その情報が掲載されること自体は江戸期の本では珍しくないです。
しかしその本は、娘の口に手ぬぐいを噛ませて、竹に縛り付けて交わることを勧めた本なのです。
挿絵は上手いですが、なかなか衝撃的な絵でした。(掲載した記事のリンク貼っておきます)
おおらかな性の時代はあったのか
そういう誰かが不安になることが想定される春画は、
多くの人に春画を親しんでもらいたい気持ちのある出版社や研究者は、
なかなか掲載図に選ばないのです。
誰も整えてくれていないカオスな無限の春画の世界に飛び込むと、
誰も自分のために絵の選別なんてしてくれないのですから、
いろんな絵が、
本当にいろんな表現の絵があることがわかります。
そうなると現代の感覚とは異なる「わらい」の表現、差別、階級の差などが気になりはじめました。
もうどこから手をつけていいのかわからないくらい、いろんな問題が交錯していました。
本を出すキッカケ
絵師や戯作者は、様々な階級の人間たち、化け物たち、猫、狐、馬、物語の登場人物、神や仏・・・
それらを人間らしい性欲がある者として描き、我々に性的な興奮や「わらい」を届けました。
性欲があるというだけで、なぜか我々は仏にすら親近感を感じるのです。
それら「わらい」って何なのだろうか・・
そこで書いたのがこの記事「オンナの性欲が『わらい』になるとき」
オンナの性欲が「わらい」になるとき
とても短いコラムなのですが、多くの方に読んでもらいました。
この記事を読んでくださった出版社の方がわたしにご連絡をくださり、
『波』での連載をスタートしました。
春画の書籍で掲載される多くの絵は江戸期に描かれたものなのですが、
当時の新聞記事や関連書籍から彼女たちが世間からどのような眼差しを向けられていたのか、
それらが春画にどのように反映され、
「女学生」や「従軍看護婦」が記号として春画に登場するのか・・
それらは今まで語られてきませんでした。
きっとあなたにとって、新感覚の春画鑑賞本であり、自分の生きる時代とは関係のない昔話とは思えなくなるでしょう。
読めば読むほど笑えて、真剣に考えて、時には股間が痛くなったり充血したりする一冊です。
あなたのために書きました。
是非読んでください。